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デザインに関する覚書 — 灯りの考察...嵐の夜 —

たとえばある嵐の夜、電気の供給が止まります。突然に灯りを失います。私は慌てて光源となるものを探しますが、せいぜいロウソクか小さな懐中電灯。動揺が過ぎ、その小さな灯りひとつでいつもと変わらぬ、やるべき仕事を試みます。皿を洗い、珈琲を淹れ、本を読みます。洗濯物をたたみ、猫を撫で、時折り宙を見つめ、考えごとをします。これといった不自由などないことに気付きます。それどころか、ありふれた仕事のひとつひとつは、もう少し愛情深くなり、もう少し深みを帯びます。

 

もし、そのような夜に、あなたが愛する人と一緒なら...。一切が闇に包まれ、小さな灯りひとつを頼りにふたりの夜を過ごすなら、普段は話さない事も話すことができるでしょう。言えずにいた心の傷、言わずにいた愛の言葉から、言うまでもなかった戯言まで。さほど大げさにせず、さほど大きな勇気も必要とせずに、もしかしたら、わずかに微笑みを浮かべて話すことができるかもしれません。告白を噛みしめ、微笑みを読み取るには、小さな灯りひとつで十分だと気付きます。

 

このような夜にこそ、生活に必要な正しい考察が生まれます。灯りに関する正しい考察が生まれます。明るすぎること。広すぎること。大きすぎること。白すぎることを思い知ります。これらの基本的な考察が生まれます。本当に必要な光のスケールと、灯りの正しい実用性を私たちが理解するのは、このような夜です。

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